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名月の里を守るために

名月会 金井實さん

日本遺産に認定された千曲市が世界に誇る風景が「姨捨の棚田」です。長野道姨捨SAや篠ノ井線姨捨駅を利用すると眼下に広がる、美しい棚田の光景を見たことがある方もいるかもしれません。

姨捨の棚田は「田毎の月」として古くから知られる名月スポットです。そんな棚田は放置されていては美しい姿をとどめることはできません。棚田を管理し景観を守る人たちがいるからこそ、美しい棚田は存在するのです。

名月会は平成8年に土地改良区の役員や地元農家などを中心に結成された、姨捨の棚田を保全し次代に引き継ぐことを目的とした団体です。今回は、代表を務める金井實さんに名月会の取り組みや棚田への思いについてお聞きしました。

月の都へのおもいを語る

名月会のメンバーは現在13人で、平均年齢は約74歳です。平成8年に今日まで続く棚田貸します制度の発足と共に結成されました。姨捨には棚田が2,000枚以上ありますが、それらを保全し皆さんに棚田に親しんでもらうことをしています。

それぞれのメンバーは日常的に棚田の保全に取り組んでいますが、それ以外に棚田を体験してもらう機会をつくるために行っているのが「棚田貸します制度」です。棚田貸します制度は、棚田を地権者から借り受け会員を募集し貸し付けを行います。会員さんは、田植えや草刈り、稲刈り、脱穀などの行事に参加し、収穫したお米は全て持ち帰っていただけます。

現在では約90組の会員さんが参加していますが、特徴はリピーターさんや県外の方も多いことでしょう。毎年、半分の参加者がリピーターで北海道から参加してくださる方もいます。毎年、参加してもらう方との交流が楽しみで制度を続けていますが、昨年はローカルの方の応募が増えすぎて1度、募集を止めたりもしました。田んぼが無くなってしまったんです。ただそのくらい姨捨の棚田は人々を惹きつけているということです。

棚田の中にある名月会の拠点姪石苑

金井さんたちが継続して行ってきた保全活動と都市農村交流の取り組みにより、どんどん増える姨捨の「関係人口」。千曲市に住んでいるわけではないけれど、心ではつながっていて年に数回千曲市を訪れる。棚田貸します制度は、そんな関係人口を全国に生み出し続けています。
では、一体、姨捨の棚田はなぜそれほどまでに魅力的な棚田なのでしょうか?全国に数ある棚田の中で姨捨の棚田が日本一と語る金井さんに、その理由を伺いました。

まず姨捨の棚田には、先代たちが築き上げてきた優れた技術が詰まっています。棚田の上流には大池がありますが、大池から各田んぼに水をうまく配分するための灌漑方法は素晴らしいものです。例えば田んぼの下に敷設されたガニセという暗渠(あんきょ)による排水方法がありますが、これがあるからこそ棚田は斜面全体に広がっていきました。

私たちは棚田学会を通して他の地域の棚田にも足を運ぶことがあります。海に面した棚田が有名な石川県輪島なんかも行きましたが、やっぱり歴史と文化と景観で姨捨の棚田は負けないなと思います。

姨捨の棚田の風景

そんな姨捨の棚田は日本遺産に認定されました。日本遺産によって姨捨の棚田がどうなっていくのが望ましいのか、千曲市において棚田はどのようなものになっていくのがよいのか、金井さんに率直な思いをお聞きしました。

千曲市が日本遺産になったのは姨捨の棚田があったからだと思います。一時は荒れていたものを私たちが頑張っていまの状態まで整備した。棚田を整備保全したからこそ日本遺産になったんだということは、もっと多くの人に知ってもらいたいです。

姨捨の棚田だけでみると、1999年に国の名勝に指定され、農林水産省の日本の棚田百選に選定されました。また2010年には重要文化的景観にも選定されました。しかしこれまでは選ばれて認知してもらえる機会をうまく活用できてこなかったように思います。日本遺産も過去の繰り返しとならないような取り組みが必要なのかなと感じています。
例えば石川県輪島の棚田の場合は多くの観光客が訪れています。人々が訪れやすいように道を整備したり、看板を整備したりといったことも必要だと思います。

もうひとつ大切だと思うのが地元の皆さんの棚田への理解と愛着です。外から来た人たちは棚田をみて感動したり棚田貸します制度のオーナーになってくれたりしていますが、地元の皆さんにとっては当たり前の光景なので、なかなか関心を持ってもらえないでいます。私たちの団体も高齢化しているので、棚田を整備保全していくためには地元の若い人に棚田の魅力を知ってもらわないといけないと痛感しています。

 

金井さんの言葉からは「自分たちが棚田を整備しているからこそ日本遺産になった」という強い自信と思いが伺えました。保全された棚田がある千曲市と、荒れた棚田の千曲市ではその姿もイメージも大きく異なります。日本遺産が、多くの皆さんにとって姨捨の棚田に関心を寄せる機会になれば持続可能な棚田の整備保全につながるかもしれません。

 

名月会では、毎年度「棚田貸します制度」のオーナー会員を募集しています。
11月頃に会員募集を行いますので、ぜひ興味関心ある方は千曲市のWebサイトをチェックしてみてください。